忘れられぬ、お客様との1つ1つの会話

タトゥースタジオをやっていると、なにしろ施術に時間がかかりますので、お客様との間で色々な会話が生まれます。

ここでは嘘が通用しません。それは何故かもうしますと、施術に必ず痛みを伴うため、お客様は偽りの自分を貫き通せなくようだからです。ですから最初は無口だったお客様でも、長時間の施術中に徐々にご職業や本音がどんどん口に出てきます。もちろん彫師だってそれに対して誠実に応えますから、上辺だけの儀礼的な世間話では到達出来ない様な、それこそ深い内容を持つ人生のお話に及ぶ事がほとんどなのです。

これからは少しずつ、その中のエピソードをこちらのブログでご紹介させていただき、彫師とお客様との関係性を少しでも多くの皆様にご理解いただければと考えております。基本的には全てのお客様を覚えているのですが、その中でも印象的だった方との会話などをご紹介させていただきます。

今でも良く思い出すのは、オープンして間もない頃にご利用いただきました全身の10箇所以上にタトゥーをお持ちのBボーイスタイルのファッションの男性のお客様。体格もガッチリしており日焼けしていて、まるでLAのメヒカーナの方みたいな雰囲気の方でした。必要最低限の事しか言わない無口なタイプの方でしたが、デザインが決まったので施術に入りました。

しかしこのように無口な方でも、タトゥーの施術の痛みが長くなりますと段々と自分をガードしているのが面倒になるのか、ご職業、普段の生活、生い立ちなどをポロポロをお話される事がほとんどなのです。

その方は幼い頃に両親が行方不明となり天涯孤独の身で児童養護施設の中で育った方でした。その児童養護施設の中にはなんと非常にタチの悪い職員がおり、夜中に暴行される事などの嫌がらせを受ける事もあったのだそうです。それを他の職員に訴えても子供の言う事なので誰も信用してくれない。そんな厳しい環境の中で「大人も社会も全く信用出来ない。自分は誰にも頼らず一人で生きてゆくしかない。」と考えるようになったのだそうです。

お話の中で一番印象的だったのは、「天涯孤独な自分にとってタトゥーだけが自分の唯一の家族のようなもの」という意味の事をおっしゃった所です。この時ばかりは、作業をしながら思わず涙がこぼれそうになりました。

この天涯孤独なお客様のタトゥー観を伺った際に、「お客様は自らの一生をこちらに預けて下さっている。生半可な気持ちで人にタトゥーを入れてはいけない。その方の一生の家族を彫る気持ちで全身全霊を込めて仕事にあたらねば。」という想いを強くしたのです。

彼に出会った事で、「タトゥーに対する人々の印象を変えられるような作品を残し、苦しい境遇を背負って懸命に生きている人達の力になりたい。タトゥーのイメージを変えたい。彼が堂々と自分のタトゥーを誇れる世の中を作りたい。」という想いを強くしたのです。